大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(特わ)2615号 判決 1988年3月04日

本籍

東京都文京区小日向一丁目八三番地

住居

同都世田谷区上用賀四丁目九番八号

遊技場経営

椿喜八郎

昭和八年七月二七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金二五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都品川区東大井五丁目一三番一号において、パチンコ店「大井ニュー東京」を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外して割引債券を購入するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五七年分の実際総所得金額が一億四二八八万八五四二円あった(別紙1同年分の修正貸借対照表、損益計算書及び所得金額総括表参照)のにかかわらず、同五八年三月一五日、同都世田谷区玉川二丁目一番七号所在の所轄玉川税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が八九六八万六八二六円で、これに対する所得税額が五一九四万五六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六三年押第九〇号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額九一八四万七一〇〇円と右申告税額との差額三九九〇万一五〇〇円(別紙3脱税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和五九年分の実際総所得金額が一億四二三八万二四三九円あった(別紙2同年分の修正貸借対照表、同損益計算書及び所得金額総括表参照)のにかかわらず、同六〇年三月一五日、前記玉川税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が七九九〇万七五六一円で、これに対する所得税額が四三〇〇万一三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額八六六五万一六〇〇円と右申告税額との差額四三六五万〇三〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の

(イ)  当公判廷における供述

(ロ)  検察官に対する供述調書一二通

一  中井康雄の検察官に対する供述調書

一  収税官吏作成の次の調査書

(イ)  現金調査書

(ロ)  普通預金調査書

(ハ)  定期預金調査書

(ニ)  株式調査書

(ホ)  割引債券調査書

(ヘ)  ゴルフ会員券調査書

(ト)  貸付金調査書

(チ)  工具・器具・備品調査書

(リ)  関係会社出資金調査書

(ヌ)  信用保証金調査書

(ル)  源泉所得税調査書

(ヲ)  支払手形調査書

(ワ)  未払金調査書

(カ)  事業主貸調査書

(ヨ)  事業主借調査書

(タ)  貸倒引当金調査書

(レ)  価格変動準備金調査書

(ソ)  青色申告控除額調査書

(ツ)  元入金調査書

(ネ)  利子所得調査書

(ナ)  配当所得調査書

(ラ)  雑所得調査書

(ム)  所得控除額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  収税官吏作成の査察官報告書

一  玉川税務署長作成の証明書

一  押収してある所得税確定申告書(昭和五七年分、同押号の1)、同(昭和五九年分、同押号の2)、同(昭和五六年分、同押号の6)、所得税損失申告書(同五八年分、同押号の3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも同条二項を適用したうえ情状により懲役刑と罰金刑を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断し、罰金刑については同法四八条一項により各罪につき定めた罰金の合算額以下で処断し、その刑期及び罰金の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金二五〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は判示のとおりパチンコ遊技場を経営する被告人が、二年分の所得合計一億一五六〇万円余を秘匿し、合計八三五五万円余の所得税を免れたという事案であり、そのほ脱額はかなり高額であり、税のほ脱率も通算で四七パーセント余に達している。

被告人は、昭和四二年にパチンコ店「大井ニュー東京」を開店したが、その事業が軌道に乗った同四五年ころから売上除外の方法による脱税を開始し、その後継続的に犯行を重ねていたものと認められるところ、本件対象年度においては、コンピュータからアウトプットした毎日の売上高及び景品交換高を確認したうえで、売上の一部を除外した売上伝票を作成して原資料を廃棄することにより実際の売上高を秘匿し、裏金を現金で管理したのち割引債券を購入するなどしていたもので、犯行態様は常習的であるとともに悪質・巧妙であるといわなければならない。 反面、本件が常習的犯行といっても、被告人の所得が急激に増加したのは昭和五六年にいわゆるフィーバー機を導入してからであると認められるので、過去の脱税による蓄積はそれほど多額ではなかったこと、被告人はパチンコ店を家主から実兄の名義で賃借しているが、かねてより建物の老朽化等を理由に家主から婉曲に立ち退きを求められており、将来の紛争に備えて資金的な手当が必要と考えていたこと等が犯行の一つの動機となっていたと認められるところ、本件によるほ脱所得は、ほとんど割引債券や株式等として蓄積されており、ほとんど遊興費や奢侈品には充てられていないこと、同業他店の進出等により昭和五八年分の事業所得は損失に終ったこと、本件の査察調査により過去五年分につき所得を捕捉されるや、修正申告(一部更正分がある)のうえ、本税をすべて完納済みであり、付帯税についても通知のあり次第直ちに完納すべく準備していること、被告人は捜査及び公判を通じ一貫して素直に犯行を自白し再犯なきを誓っていること、被告人には前科・前歴が全くないことなど被告人のため斟酌すべき事情も認められるので、これらを総合勘案して被告人に対し懲役刑の執行を猶予するのが相当である。

(求刑 懲役一〇月及び罰金三〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

検察官井上經敏、開山憲一、弁護人葛西宏安 各出席

(裁判官 小泉祐康)

別紙一 修正貸借対照表

昭和57年12月31日現在

No.1

椿喜八郎

<省略>

修正損益計算書

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

No.1

椿喜八郎

<省略>

所得金額総括表

自 昭和57年1月1日現在

至 昭和57年12月31日現在

No.1

<省略>

別紙二 修正貸借対照表

昭和59年12月31日現在

No.1

椿喜八郎

<省略>

修正損益計算書

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

No.1

椿喜八郎

<省略>

所得金額総括表

自 昭和59年1月1日現在

至 昭和59年12月31日現在

No.1

<省略>

別紙三 脱税額計算書

年分 57年

<省略>

別紙四 脱税額計算書

年分 59年

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例